複合型光ファイバースコープシステムを用いた医療研究
近年、医学と工学の融合により誕生した内視鏡下手術やロボット手術といった、患者への侵襲が少ない治療(低侵襲治療)が盛んに行われています。
低侵襲治療の普及は、患者の負担軽減、入院期間の短縮などにつながり、QOL(Quality of Life)の向上に大きく貢献しています。
“1本の光ファイバーで映像とレーザー光を同時に伝送できる”という特徴を持つ複合型光ファイバーを基に構築した複合型光ファイバースコープは、
今後更なる普及が望まれる低侵襲治療において大きなメリットであり、さまざまな領域へ適用できる可能性があります。
複合型光ファイバースコープの特徴
一般的な内視鏡は、観察方向とレーザー照射方向が異なるため、使いこなすためには熟練を必要とします。
一方、複合型光ファイバーは観察方向とレーザー照射方向が一致することから、対象物を観察しながら、より容易で安全なレーザー照射が可能となります。 また一般的な内視鏡より小型であるため、低侵襲な治療が可能となります。
応用例
末梢気道の観察
株式会社OKファイバーテクノロジーは、肺の末梢野に挿入して観察・照射できる外径1mmの複合光ファイバースコープを開発しました。 このファイバースコープは、従来の気管支鏡では到達できなかった肺胞まで到達可能なため、中枢気道から肺胞までのすべての気道の観察が可能になりました。次の3つの動画は、外科的に切除された肺を用いた人間の気道の内腔を示しています。 今後この手法を、効率的な生検や腫瘍の治療に応用したいと考えています。
※以下の動画は、立川病院 木下先生よりご提供いただきました。
末梢肺癌治療
子宮内検査/治療
子宮の入り口付近(頸部)にできる子宮頸癌は、初期症状であれば頸部の一部切除によってほぼ完治し、妊娠も可能です。 それに対し、子宮の奥(体部)にできる子宮体癌は、初期症状であっても子宮全摘出手術が基本で、術後の妊娠は不可能です。 子宮体癌の罹患数は増加の一途を辿っており、2005年には8,000人を超えています。 年代別では50~60歳代に罹患数のピークを迎えますが、閉経前の40歳前後でも少なくなく、少子高齢化や晩婚化が進む昨今では、子宮全摘出術を行わない術式が求められています。
通常、子宮体部の診察・処置の際には、器具の挿入経路を確保するために頸部入口の拡張が必要です。 外径1.1mmの複合型光ファイバースコープ(レーザー光をファイバー中心のコアで伝送可能なタイプ)は、頸部入口を拡張することなく挿入可能であることから、患者への負担を大幅に低減できます。
また、複数の波長のレーザー光を導光できる特徴を活かし、焼灼治療、光線力学的診断(Photodynamic Diagnosis:PDD)、光線力学的治療(Photodynamic Therapy:PDT)を 1本の光ファイバースコープで実施するハイブリッド診断治療を行うことを構想しています。
小腸内検査
腸閉塞および腸が癒着している患者さんに使用可能な小腸内視鏡の開発
- 継続的に腸の処置や診断を行うことが可能
- 臨床研究を継続中
膵臓・総胆管内検査
膵臓内、総胆管内の検査と胆石、膵石、胆嚢癌および膵臓癌の治療
- 胆管鏡では挿入の困難な狭隘部の観察が可能
- 十二指腸乳頭部を切開せず主膵管・総胆管へ挿入し、内部観察可能
無遮断血管バイパスツール
血管中の血液供給を中断することなくバイパスを作成
- 観察しながら血管壁を切断
- 無遮断血管バイパスシステムを構築中
- 2012?:前臨床試験を開始
神経内視鏡手術ツール
正確に止血可能な神経内視鏡治療器具の開発
- 選択的な止血が可能
- 2012?:前臨床試験を開始